灰色のピーターパン

小説を始めました 人生初の試みです このはてなブログで小説を書くことが正しいのかは不明ですが好きなように綴っていきます

音を売る人 第4話「創作」

バーコードリーダーを握る深夜1時

俺は薄汚れた作業着姿の男が選んだ惣菜パンとペットボトルのお茶の会計を済ませるとお釣りとレシートを渡した

男が何も言わずに退店していくのを確認すると耐えきれず、大きな欠伸をした

俺は未だにコンビニのアルバイト生活から抜け出せずにいる

そして、もうそろそろ社員になることを打診されてもおかしくない月日が経とうとしていた

昨日は渋谷のCDショップに何も買わないのに暫く入り浸り、3人で音楽談義に花を咲かせた

しかし、夜勤の時間になると一気に現実に引き戻される

そんなことをレジの前に立ちながら考えていると横から俺を呼ぶ声がした

「シキムラサン サイキンドウ?」

カタコトの日本語で調子を聞かれた

何気ない会話を始めようとしてきたのはバイト仲間の留学生・キムであった

出身は韓国で日本の大学に通っており、夜勤ではシフトが被ることが多い

「どうって…まあまあかな」

「オンガクヤッテルノ?」

「あぁ たまにね…1人で歌ったりするかな」

「マダヤッテルノカ ナルホド」

「キム君は最近どうなのよ?」

「ボクハ…ベンキョウバッカリ」

「そっか 頑張ってね」

それから店内には物音がしなくなった

お互い言葉を発さず、沈黙が続いた

まるで黙祷の時間のようだ

お客の来る気配もなく、近くの道路からは車の走行音すらしない

するとキムは再び話し始めた

「コンド、シキムラサンノライブ…イキタイ」

「ハハッ 来てもいいけど…あ、そうだ」

「ナニナニ?」

「どうせならバンドのライブ見に来てよ」

「バンド?!ハジメタノ?」

「そうそう 今すぐには出来ないけどいつかライブするからその時は…」

「イクイク ゼッタイイク」

俺は背伸びをながらもう一度欠伸をし、腕のストレッチを始めた

「キム君はどんな音楽を聴くの?」

「ボクハネ ニホンノロックガスキ」

「マジで? 好きなバンドは?」

「ンー ブルーハーツカナ」

「へぇー 良いね 俺も好きだなぁ」

「ソレヨリ…ソノテハドウシタノ?」

俺は包帯で巻かれた左手を右手で掴んだ

「あ、これ?家で料理してたら怪我しちゃってさ 普段やんないことやるもんじゃないよね」

所々誤魔化しつつ、起伏のない話していると履いていたチノパンのポケットが振動するが分かった

iPhoneがお馴染みの着信音を奏でた

俺はキムにレジを任せて裏の従業員専用の部屋に行き、液晶画面を確認した

そこには福士孝太の文字 応答してみる

「もしもし どうした?」

「バイト中だったよね ごめん」

「うん なに?」

「いやさ 明後日スタジオ入らない?」

「スタジオか… いいけど…何するの?」

「曲作ろうよ 前に活動してた時に作った曲は思い出そうとしても曖昧だし、新鮮さにも欠けるからさ」

「やる気になると早いんだよな、お前らは まあ、いいや お昼頃にするか 予約しといて」

「あ、手は…大丈夫?」

「ギターなら無理してでも弾くよ じゃあ」

俺はそう言って電話を切ると再びレジの定位置に戻る

キムと目が合ってお互いニヤリと笑みを浮かべた

暇で良いことなんか何一つない

でも、今日は良い日かもしれない

何故ならたった今、暇じゃなくなったからだ

これは哲学だ

ニーチェゲーテも頷いてくれるはずだ

 

 

 

 

 

 

 

俺たち3人は池袋の某リハーサルスタジオで楽器を片手に熱論を繰り広げていた

少し肌寒いぐらいの空調が全くの効果を示さない程に俺たちの心の熱は滾っていた

浩充はドラムスティックを小さな練習パッドに打ち付けながらリズミカルに会話を弾ませていく

「基本的に岳が曲のベースを作ってくる その方が良いと思う」

孝太はベースのペグを弄りながら只管頷く

俺はアンプを通していないエレキギターをチャキチャキ鳴らしながら饒舌に語り始めた

「そうするか 俺がギターでフレーズを考えてきて…それに2人が合わせてセッションする そして、ジャムりながらメロディーを考える

細かいところは後で微調整するとして…歌詞はその後だな」

そうすると俺は徐にレンタルしたストラトキャスターをアンプに通してボリュームをある程度まで上げてみる

フィードバックのノイズがスタジオ内を走り回る

そして、適当なギダーリフを演奏し始めた

感覚だけで弾いたそれは、山中さわお率いるthe pillowsのサードアイと言う曲のイントロをパクったようなフレーズだった

拙いピッキングのあどけないサウンド

ミスタッチも気にせず、このリフを何周も弾き続ける

すると何故かそれに合わせて孝太がベースを弾き始めた

俺の運指を凝視しながら何とか食らいついてる感じがした

そうなると浩充もリズムを身体全身でとりながら心の中でカウントを取り、自然な形で8ビートを響かせる

三位一体とまでは言わないが不思議なことにちゃんとしたセッションにはなっていた

暫くの間、演奏を続けると浩充がドラムを叩く手を止めた

「なぁ…今の良くね?」

孝太はベースのネックをクロスで拭きながらそれに同意した

「俺もそう思った!適当に考えたの?」

the pillowsっぽいリフを弾いただけだよ」

「これもっと練れば良い曲になるよ!」

浩充がドラムスティックでカウントを取ると再び同じ演奏が再開された

C→Amが繰り返されるコード進行

乾いたスネアの音が響くドラム

俺はこれに鼻歌を乗せてみることにした

思いつくがままのメロディーを吐き出す

次第に俺や2人の演奏は轟音と化していく

髪の毛を振り乱しながらマイクに噛み付き、鼻歌から叫びに変わっていく

額に緩い汗をかく3人の激しいプレイはいつのまにか名前の無いバトルに変貌を遂げていた

この時間がいつまでも続く気がした

その時、俺は2人とアイコンタクトを取って曲を終わらそうとギターのネックを縦に振った

浩充は派手なタムワークを披露し、孝太も弦を叩いて荒々しさを演出した

その後はフィードバックのノイズだけがスタジオの中を走り回った

俺はペットボトルの水を一口飲むと丸椅子に腰を掛けて下を向いた

「今のヤバいね ちゃんと曲にしよう」

そう言ったのは浩充だった

「おう…久しぶりにこんなギター弾いたわ」

「やっぱり弾き語りばっかりやってるとこう言うの新鮮でしょ?」

孝太の鋭い問いかけを避けることは出来なかった

「そうだね…やっぱりバンド楽しいわ」

「そうだ!今の忘れねぇうちにメモしとこうぜ ホワイトボード借りてくるわ」

浩充は曲の構成をメモしたかったのか、ホワイトボードをレンタルする為に受付に向かった

そして、俺と孝太だけの空間がそこには残った

「岳って…どうしてギター始めたの?」

俺はストラトをギタースタンドに置くと、壁に寄り掛かりながら長くなりそうな話を垂れ流そうとした

「んーとね…俺は10個も離れてる従兄弟がいるんだけど、その従兄弟がギターやっててさ よく遊んだりしてて…その延長で何となく始めんだよね でも、その途中でレイジに出会ってさ」

Rage Against the Machine?」

「そうそう それでトム・モレロの演奏を見ちゃったもんだからさ…それからはギターの虜ですよ」

「なるほどね あるあるだよね」

「あるあるか? まあ、エレキは楽しいよ」

「だけど…今、やってる音楽ってそれとはちょっと違くない?」

俺は再び水を口に含んだ

そして、ポケットにしまってあるiPhoneを取り出し、足を組みながら意味もなく触り出す

「あくまでレイジはきっかけだよ 今は聴かないしね やりたい音楽はロックンロールを感じるモノであれば何でも良いんだ」

「へぇー そうなんだ」

するとその時、重い二重扉が開いた

慌てた様子で浩充が目玉をまん丸にして膝に手を当てながらこちらを見つめる

荒い息遣いで呼吸は乱れていた

「ど、どうしたんだよ」

「て、テレビ見てみろ!こっちだ!」

「はぁ?なんだよ…」

俺と孝太は浩充にテレビが設置されているロビーまで連れて行かされた

俺は"何事だ?"と驚いた心を隠せぬまま薄型の液晶画面の目の前に立った

そこにはある程度は予想していた事実が電波に乗っていた

孝太も呆然と立ち尽くすことしか出来ずにいた

勿論、それは浩充も俺も同じだった

「只今入ってきたニュースによりますと…経営業を営む九十九隆太容疑者40歳が麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで逮捕された、との情報が入ってきました

警視庁の取り調べに対し、九十九容疑者は容疑を否認しているとのことで…」

俺は生唾を飲み込んだ

孝太は口を半開きにして顔を顰めていた

「これって…あの…九十九だよな?」

俺の強ばった質問に浩充は回答した

「あぁ…その九十九だよ…」

「でも…リタだけでこんなスピードでパクられたりする…の?いや、分かんないけど」

孝太の何気ない疑問にも浩充は冷静だった

「他のクスリもビジネスとして扱ってたんだと思う 恐らく"紙"とか…」

俺は近くにあった丸テーブルの椅子に座ってタバコに火をつけると、肘をつき、親指をこめかみに押しつけながら画面の向こうのアナウンサーを見つめて言葉を溢した

「それより…俺たち大丈夫だよな?」

浩充も俺の隣の椅子に座り込んだ

「それは分からない…九十九やその周りの人間が俺たちの話を警察にしたら捲れるかもしれない」

孝太は備長炭よりも黒々とした浩充の恐ろしい推測を宥める

「でもさ!俺は実際に2人からは買ってないわけだし…2人だってあの仕事半年もやってないんでしょ?」

「俺は4ヶ月…岳は2回しか売り買いの場は立ち会ってない」

「じゃあ、大丈夫だよ!」

「だと、良いがな…」

ニュースは面白い

今日何が起きたのかを集約して伝える行為自体が面白いのだ

俺はそう捉えている

しかし しかしだ

たった今、16:9の画角から放たれる戦慄の一言では収まり切らない情報は全く面白くない

俺たち3人を殺しにかかっている

映像は鋭く尖ったナイフだ

これだけは分かる

何故なら、既に俺の扁桃体は速報と言う名の刃でズタズタに切り刻まれているからだ

そこの君はどうだい?

人の不幸は…面白いよな

こうも立場によって感情の差があるわけだ

俺たちはまた何かを失って何かを学んだ気がした

 

 

 

 

 

 

騒音と眩しい光が喧嘩をしている店内を1人の男が動き回っていた

男は階段を使い、二階に上がると数分間、何か考え事をした後に1つの台に的を絞った

台と言うのだから勿論、パチンコのことである

使い古された椅子に腰掛けると、一万円札を現金投入口に流し込んだ

上皿に玉が溜まっていくのを確認し、ハンドルを握りる

銀色の玉が釘に当たり、跳ね返る様を眺めながら貧乏ゆすりを始めた

男はただの雑音でしかない音楽を浴びながら玉を減らしていく

台の画面の映像が忙しなく切り替わり、紫や赤に光り出す

その時、下皿に置いていたiPhoneがブルブルと震え出した

視界に入ったのは"式村"の文字だった

男は舌打ちをしつつも4コール目ぐらいで応答した

「はい なんだよ 久しぶりじゃん」

「あっ 波多野...出るの早いな」

「うるせぇよ なんだよ、用件先言えよ」

「あのさ...ギターってまだ...弾いてる?」

「弾いてたら...なんだよ なんかあんのかよ」

「ちょっとさ 場所変えてくれる?うるさっ お前どこにいるんだよ」

「いやぁ これ、甘デジとか言ってるけど嘘だろ あー 緑保留か」

「おい!聞いてんのかよ!おい!」

「わかったよ わかった ちょっと待ってろ」

そう言うと男は荷物をまとめて台から離れる

男は面倒臭そうな足取りで店の外へ出ると、地面に唾を吐いて頭を掻いた

「それで...ギターがなんだって」

「いやさぁ 単刀直入に聞くけど...バンドとかやる気...」

「ない!以上」

波多野と言う男は即答だった
どんな問いかけなのかを瞬時で判断出来る男なのか、全てに対して否定をしてくる男なのかは謎であるが、答えは1つだった

「まだ最後まで言ってないじゃん」

「バンドのお誘いだろ?結構です」

その声は冷たくて感情が滅んで形を失くしていた

「はぁ...そうか 悪かったな 突然電話して... じゃぁ」

「おう あ、でも...岳、ちょっと待て」

それは意外なレスポンスだった

「ん?なに?」

「あのさ...久しぶりに会ってはみたいかな バンドがどうこうとかは別にして」

波多野の言葉の音が次第に丸くなっていくのが分かった

「あぁ それはいいよ いつ?」

「今日!今日の夜 いつものファミレス...ほら 亀戸駅の近くにある...ほら」

「あぁ はいはい あそこね って今日かよ 別に空いてるけど」

「お前から電話したんだろーが 7時な また連絡する」

通話は品もなく、乱暴に切れた

「ちょっ なんだよ...勝手だな」
世界一簡易的であろう通話はすぐに終わりを迎えた

そして、波多野は再び金になる玉との遊戯に戻ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後7時過ぎ、亀戸駅近くのファミレスには資源ごみとしても回収されないような くだらない男2人がドリンクバーだけで顔を付き合わせていた

その男とは俺、式村岳と波多野 正恭である

俺と波多野はたわいもない話に花を咲かせていた

飲んでいたメロンソーダもいつもり美味しく感じたし、炭酸の強さも心地良く感じた

「高校の時の軽音部と会ったりする?」

俺は誰でも考えつきそうな質問を波多野に投げかけてみた

「会わないね 連絡先知ってるのもお前だけだもん」

「そうか.... いやさぁ、俺...またバンド始めたんだよ」

波多野はiPhoneで時間を確認して、腕を組んだ

「懲りないな どうせまたダメになる」

「何でそう言い切れるんだよ 今回はいける いけるんだよ」

「理由は?なんで逆にそう言えるんだよ」

「良い曲が降りてるんだよ しかも一曲じゃない」

「へっ 良い曲ってどんな曲だよ 何が"良い"んだよ」

「とにかくカッケェ曲だよ 聴くとテンションが上がるような...」

「あのさ...そんなことより...」

嫌な予感しかしなかった 

昨日見た、あのニュースと同じ匂いがした

臭くて堪らない 堪らなかった

「な、なに?」

俺は恐る恐る聞いてみることにした 

"そんなことより"の続きを

波多野はメロンソーダをストローで飲み干すと、わざと氷同士を当てて、音を鳴らすようにグラスを持って続きを話し始めた

「金貸してくれない?」

俺はテーブルに置いてあった紙ナプキンを一枚取ろうとしたが、その手を止めた

「はぁ?!お前さぁ...まさかその為に俺と会ったのか?」

「あたりめーだろ バンドの話なんかしに来たんじゃねえよ」

「何か怪しいと思ったんだよ 仮に金を借りようとしている身でその態度はなんだよ!」

「バカ 声がデカいよ 岳...いくらなら貸せる?」

俺はそばにあったメニュー表を両手で持ってテーブルに叩きつけた

情けない音と微風が波多野の顔を掠めた

「お前が俺の声をデカくさせてるんだろ いくらって...いくら必要なんだよ」

「は、はち...8万?いや、7万でも良い!」

「8万?!お前その前にパチンコやめろよ 今朝だって打ちに行ってたんだろ?」

波多野は俺を仏様だと勘違いしているのか、手と手を合わせて拝み始めた

「なぁ...頼む!もう、お前ぐらいしかこんなこと言えないんだよ 軽音部の奴も俺がこんな調子だからどんどん離れていった...それでもまだ繋がりあるのはお前だけだし...」

俺は残っていた自分の注いできたメロンソーダを一口飲んで、窓の外に目線を運んだ

あまりにも目の前の同級生が憎たらしくて直視出来なかった

「はぁ...金は貸せねえよ すまん」

すると、波多野は両手を自分の前でパンッ!と叩き、何か思いついたような表情を見せた

きっとニュートンエジソンもこんな閃きの連続だったのかもしれない、なんてどうしようもい冗談でも呟きたくなる

「そうだ!ちゃんと話、聞いてなかったけど…何でバンドなんか誘ってきたんだよ」

「あ、それは...今、良い曲は出来てるんだけど どうしてもギターがもう1人必要なんだよ 本格的なリードギターが加わるだけで化けるヤツばっかなんだよ」

「それで?」

「そこで...お前の顔が浮かんだ 軽音部では一番ギターが上手かったし、今ではパチンカスだけど一応はギターマガジンのコンテストで入賞したこともあるわけじゃん? お前がバンドに入ってくれれば何か変わるんじゃないかって そう思って...」

波多野はボサボサの黒髪を乱雑にいじりながらニタリと不気味な笑みを浮かべた

気持ちの悪いぐらい目尻の皺と口角がじわりと上昇する

この顔はもはや芸術かもしれない

そして、その時だった

「じゃあさ...金貸してくれたらそのバンドの件、考えるよ」

溜め息を何回吐いてもスッキリしない提案だった

俺は思わず波多野の全てを睨み付けてしまった

隅から隅まで睨んでみることにした

「考えるって... 入るかどうかも確定じゃないのに金を先に貸すっておかしいだろ」

「いや、7割加入と考えてもらって良い」

この世で一番怪しい数字・7割を使用するあたりが波多野って感じではあるが、もう少しだけ話を続けてみることにした

「本当か? じゃぁ、お前を8万で買うってこと?」

「ああ どんな曲だ 聞かしてみろ」

「偉そうだな ちょっと待ってろ」

俺はボイスメモに録音したバンドの音源を聴かせる為にイヤホンを取り出した

ケーブルが絡まったイヤホンを解きもせずに、プラグをジャックに差し込む

波多野はその瞬間、イヤホンを奪い取り、片耳だけにイヤーピースをねじ込んだ

俺は怪訝そうな顔をしながら、音源を再生する

約3分の荒々しい音の塊を高校時代からの友人にぶつけている

波多野は何度も曲を聴きながら頷いた

「これなら弾ける、混ざれる シンプルなロックなら俺でも対応出来る」

「ここでギターソロとか弾いてくれると...」

「はいはい イメージは浮かぶ 金は必ず返す!それなら良いだろ?」

俺は利き手の指をポキポキと鳴らしながら、右足で8万円男の脛を軽く蹴った

「パチンコ...やめろよ?」

「それも"考えてみる" 今日みたいに300回転から激アツな感じになる日もあるからな 考えてはみるよ ハハッ」

「てめぇ やっぱり貸さねぇ」

「なんだよ それっ」

「ったく…8万のプレイしてくれよ?」

「おっ おう!まず、バンド練習を見学させてくれ 貸すのはそれからでも良い」

お前はどこまでお人好しなんだ

式村岳、それじゃいつまでも幸せにはなれない

その意見は重く受け止めたい 

だけど、多分...俺はジジイになってもお人好しのままだ

まだ、金は貸すと決めたわけじゃない

だけど、8万と言う額がチョーキングされる

そんな映像が脳内を駆け巡ったのも事実だ

でも、考えてみるととんでもない賭け事に挑戦しているのは波多野じゃなくて俺なのかもしれない

バンドと言うギャンブル、これに魂をベットしているからだ

パチンコのように回転する人生はまだ始まったばかりだ

創作 何かを生み出すことでその回転数は上がっていく

そして、それは止まりはしないのだ 

決して止まりはしない