灰色のピーターパン

小説を始めました 人生初の試みです このはてなブログで小説を書くことが正しいのかは不明ですが好きなように綴っていきます

音を売る人 第2話 「売人」

俺は今、1LDKと言うモノを体感している

ここは、西新宿の高層マンション

窓からの景色は良い眺めであった

しかし、俺の目の前で繰り広げられている光景は最悪の眺めだった

革製のソファに腰を掛けるのは俺と浩充

そして、そのすぐ近くの椅子にもたれているのは丸眼鏡をかけた七三分けの男

男と浩充はある錠剤をテーブルの上に散らばしてから丁寧に数を数えていた

浩充は数え終わった錠剤をビニール袋に入れて、自分のリュックにしまった

「いつもありがとうございます」

浩充がそう言うと男は不気味な笑顔を浮かべた

「ハハッ 使い過ぎはよくないよ」

「そこは大丈夫です あ、コイツのこと紹介してなかったですよね 岳って言います」

「岳くんね よろしく」

向こうは握手を求めてきた

反射的に手を伸ばしてしまった俺がそこにいた

「ところで、どう言う関係なの?」

「元々組んでたバンドのメンバーなんですよ」

俺は何も言わずに首を縦に振った

すると浩充は下北沢の居酒屋で例のクスリについて、話をしたことの経緯をこの七三分けに説明し出した

「九十九さんのこともリタのこともそこでコイツに話して…なぁ?」

旧友にただ話しかけれただけなのに、心臓を強く潰されそうな感覚が走った

「あぁ はい」

そして、どうやらこの男は九十九と言うらしい

彼は錠剤を指差して再び笑みを浮かべた

「コレに興味があるから来たんだよね?」

そうではない 

ただ、浩充に"面白い話が聞ける"と言われて仕方なく着いてきただけだ

「いえ…彼から面白い話が聞けるって伺ったので、何となくって感じで…」

九十九は丸眼鏡の位置を人差し指と親指で直すと黙って椅子から立ち上がった

そして、何も言わずに奥の部屋に消えてしまった

「え?なんか俺…マズいこと言った?」

「いやいや まあ、待ってろ」

すると5分後ぐらいに九十九は黒いセカンドバッグを持ちながら元の場所に戻ってきた

そして、その怪しげな黒い塊のファスナーを開けると薄めの札束を一束取り出した

「これ全部で30なんだけど…浩充くんがコイツを売って作ったお金なんだ」

表情が一気に強張るのが自分でも分かった

俺は黙るしかなかった

「君、仕事は?」

「ふ、フリーターです」

「音楽もやっているらしいよね そっちの収入の方はどうなの?」

「ほぼゼロです」

姿勢を正して座っていたが、いつの間にか拳を膝の上で硬くしていた

「じゃあ、結構キツイでしょ?」

そうすると、浩充が煙草に火をつけて俺の肩を自分の方に寄せて流暢な口ぶりで語り始めた

「そこでだ ちょっとだけでいいからさ 俺とこれ捌くの手伝ってみねえか?」

俺は浩充の手を振り解いて、怪訝そうな顔を見せた とにかく必死だった

「俺は遠慮しておくよ トラブルに巻き込まれても困るし」

「バカ そんなことはねえよ お前がバイトをフルで入っても手に入らない額が簡単にゲットできるんだぜ?やらないって手はないだろ」

すると九十九は何世代も前であろう、折り畳める携帯電話を3台テーブルの上に並べた

「このリタリンって薬はそう簡単に処方してくれるモノじゃないんだ だけど、求めている人間が多いのも事実 その人たちに通常の処方箋の倍の値段で売り付ける その売り上げの半分を俺によこす この携帯に顧客情報が詰まっている そう言う仕組みよ」

浩充は蕩けそうな目玉を動かしながら2本目の煙草に火をつけ、九十九の方を向きながら再びベラベラと語り始める

「トバシ?ってヤツですよね まあ まあ…そんな深いこと考えないでバイトを掛け持ちしてると思えば気が楽だろ?何も俺だってずっとやるつもりじゃねえよ」

俺は思わず立ち上がった

「でも、そんな規制の厳しい薬物をどうやって仕入れているんですか?」

「それは…教えられないな」

俺は額に脂汗をかいていた

今までかいたことのない質の悪い汗

次第に頭から足の爪先まで震え出し、それを止められなかった

置き時計の秒針が刻む音だけが鳴り響く生活感のない部屋が俺の心を刺し殺そうとしていた

このヤサには愛も希望も未来も存在などしなかった 虚無感だけが宙に舞っている

それは浩充の瞳の奥に映っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間後、浩充と俺は池袋の某ビジネスホテルの前に立っていた

もう春も終わりを迎える頃だと言うのに冷たい風が無愛想に吹き乱れていた

汚れの目立つパーカーとジーンズで持ち物は貴重品と例のトバシの携帯電話だけで戦場に足を踏み入れようとしている俺とブツの入った手提げバックを片手にシャツ一枚で乗り込もうとする浩充

二人ともこの日は血が通ってなかった

「405号室だよな」

「マジで今日だけだぞ クソ野郎が」

「怒んなよ 騙したかったわけじゃない」

俺と浩充は自動ドアを通ると一目散にフロントへ向かい部屋の予約の確認をする

そして、心を落ち着かせながらエレベーターに乗り込む

上を見上げ、階数が段々と4階に近づいていくのを確認する

重い扉が開くと物音一つしない綺麗な廊下に辿り着いた

ホテル独特の匂いを漂わせているのは間違いなく、俺たちが取った部屋は404号室であったことも間違いなかった

深呼吸をすると、カードキーを使って静かに部屋の中へと進んでいく

中には冷たい空気の漂う液晶の薄型テレビが一台と小さな冷蔵庫があり、綺麗にベッドメイキングされた寝具も堂々としていた

すぐに扉を閉めると、一旦荷物を床に置いてジーンズのポケットにしまっていたトバシの携帯電話から正しい名前もよく知らない相手に発信してみる 相手は4コール目で応答した

「もしもし 例のアレです わかりますか?」

「……」

「もしもし? 聞こえますか? 例の…」

「あ、今聞こえた 早いね もう着いたんだ」

「はい もう準備できてます 隣の404号室にいるんで、タイミング見計らって…」

「はいはい 今行くよ と言うか普段聞かない声だけど新入り?」

「そうです き、期間限…」

突然、電話は切れた 印象としては最悪だ

俺は怒りを込めて蓋を折り畳むと、浩充に何も言わずに渡した

すると、扉のノックの音が聴こえた

俺は慎重にドアノブを動かすと隙間から見えたのは金髪にスウェット姿の男だった

見た目は30代前半と言ったところだろうか

「入って大丈夫?」

俺はまずこの男が何者なのか分からなかった

しかし、浩充は顔馴染みのような素振りで手を挙げて迎え入れた

「お久しぶりっす どうぞ」

男はパタパタとスリッパの音を鳴らしながら肩で風を切るように部屋の中に入ってきた

身長は俺よりも少し高い気がしたが、顔つきは悪くて覇気のない感じがした

「なんで今日は2人なの?」

「いやぁ…研修…的な…」

「そーなんだ アンタも人に何か教えるようになったんだ」

浩充は軽く会釈をした後に手提げバックからビニール袋を取り出した

そして、その袋の中にある例の錠剤を金髪の男に見せる

「こんだけあります…希望は?」

「んー そうね…半分は欲しいな」

俺と浩充は思わずお互いの顔を見合わせた

まるで紀元前に作られた石像なような固まり方をしていたと思う

「は、半分ですか?」

金髪の男は眉間に皺を寄せる

「なに?問題あり?」

俺は咄嗟にその場を取り繕った

「問題ないです!」

浩充は本音を少しだけ溢した

「結構、飛ばすんだなーと思ってしまって」

「飛ばす?あぁ…毎週末のクラブではマストだから仕方ないんだよ じゃあ、半分で良いなら…ほらっ」

金髪の男は財布からあるだけの万札を浩充に渡してきた

浩充はすぐに渡された諭吉の人数を指で数えていく

この時、自分の内側から弾ける鼓動の音がしっかりと聴こえた

今にもこの世の全てのネガティブな感情を混ぜたような色で全身を塗られそうな勢いでもあった

「足りてる?」

「確かに... じゃあ、これは頂きます また、必要になったらあの番号にかけてください」

「おう いつも悪いね あっ 呉々もポリには気をつけて」

笑みを滲ませながらそう言うと、男は404号室を去って行った

俺は肩の荷が下りたと同時に物凄い疲労感に襲われて、ベッドに思わず腰掛けた

浩充はそんな俺を見かねたのか肩に手を置いて一本、煙草を差し出してきた

俺は首を横に振った いらなかった 

そんなことより、早くこの場から出たいのが正直な思いだった

「俺、やっぱ辞めるわ 続けられる自信ない」

深めに紙巻からニコチンとタールを吸い込むと、濃ゆい煙を燻らせて浩充が話し始めた

「確かに処方箋で貰えはするけど向精神薬ってヤツだからな これの常習者相手に仕事してたら自分の身が危ない 分かるよ... ただ、クソみてぇなバイトするより確実に稼げるし...中卒の俺には他の仕事のあてもない」

俺はベッドの上に大の字になって豪快に寝ると、天井を見上げた

「まだ、俺ら...終わっちゃいねえよ...」

「ふっ 格好つけるなよ お前も三流大学中退は笑えねえぞ」

「いつまでこんな仕事続ける気だよ」

浩充はシルバーのオイルライターを意味もなく開閉しながら困り顔をしてみせた

「さぁな とりあえず次の客の時だけでもついてきてくれ さすがに初日だけじゃ判断し切れないだろ?それにお前への分け前もまだ決めてないし」

「次だけだぞ 本当に次だけだ 分け前はジャリ銭で良い」

俺たちは深い溜め息を吐いた 

その深さは計り知れなくて、マントルにまで届きそうな感じがした

様々な場所へ降り立つも、結局はどこに行くことも出来ない旅烏のような俺たちが未だに花の都、東京で屍になれずにいた

きっと神様も嘲笑しているに違いない 

違いないんだ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は日曜日

天気も良くて人々の動きもどこか晴れやかだ

そんな日に俺は1人、三ノ輪駅近くを徘徊していた

と言うのもいくら歩いても灰皿が見つからない

喫煙所らしきスペースもないし、喫煙可能な飲食店すら現れない

そんなことをしているとiPhoneがこちらを脅かすように鳴り出した

液晶画面には浩充の文字

俺は近くの電柱に凭れながら電話に出る

「おいっす もう着いた?」

「ああ 迎えに来てくれるの?」

「あー んー もう客との待ち合わせ場所の喫茶店にいるんだよ 来られる?」

「住所か店の名前教えて すぐ向かう」

俺は浩充が待機している喫茶店に向かうことにした 生き急いでいるかのような早足で自転車に乗る高齢者や親子連れをかき分けていく

大通りから外れ、細い路地に入っていくと…

そこは何の変哲もない閑静な住宅街の世界が広がっていた

自分が歩いている間に黒いワゴン車が一、二台通り過ぎていくのは確認出来たが、基本的には静かで落ち着いた雰囲気が漂っていた

すると、いつの間にか目の前には年季の入った老舗を匂わす喫茶店が待ち構えていた

埃の被った食品サンプルが展示されているショーケースと目があったが、特に気にもせず店の扉を開けた

カウンターに立っている白髪が似合うモダンな中年男性がいらっしゃいませと言う言葉と共に笑顔を投げてきた

すると、奥の方の席に座る浩充の姿が視界に入ってきた

奴は季節外れの黒いパーカーを纏っていた

向こうが手を挙げるとお互いアイコンタクトをして向かいの席に腰をかけた

「よいしょっ… 三ノ輪って何もねえな」

俺はそう言うと浩充は咥えていたタバコを口から外して、右耳を穿った

「下町だけどな…まあ、何かあるわけじゃ…」

俺はアイスコーヒーを頼むと店内を見渡してタバコに火をつけた

「いや、俺は今日が最後だと思うと…」

「しつこいよお前 最後、最後って」

「悪い で、結局、お前はいつまで続けるの?」

「実は…俺もやめたくなってきたんだよね」

「は? じゃあ、一緒にやめようよ」

「そうなんだけど…どうやって九十九さんに説明し…あ、電話だ」

浩充は慣れた手つきでトバシからの電話に出る

「もしもし…あ、はい その場所で合ってます はい…待ってます」

俺はタバコを灰皿に押し潰して目を擦った

「どれぐらいで着くって?」

「もう5分もかからないってさ」

30手前のむさ苦しい男2人が三ノ輪の喫茶店でタバコとアイスコーヒーを惰性で頂いている姿はどこか虚しさを振り撒いていた

俺は吸っては一口飲み、吸っては一口飲みを繰り返しながら腕時計をチェックする

とにかく今日で終われる 

売買の現場はこれを合わせてたったの2回だが、刺激的な社会経験だったと思えば気が楽である

すると、入り口の扉が開く音がした

店内に入ってきたのは見た目からして俺たちと歳の近い中肉中背の男だった

黒の長髪で長さは顎ぐらいまである

イラストがプリントされた長袖Tシャツ一枚に紺のチノパン姿の男は周りをキョロキョロし出した

浩充がその姿を見て、既に服装等は口頭で確認済みの為、先程電話した客だと察して手を挙げて呼び込んだ

段々と彼がこちらへ近づいてくるのが分かった

しかし、その時だ

俺たち2人は一瞬にして固まってしまった

男の方も浩充と目が合い、その後に俺の顔も確認してから足が動かなくなっていた

最初は呆気に取られて言葉が出なかったが、俺はその状況を黙って見てはいられなかった

「こ、こ孝太…だよな?」

浩充は半笑いで俺の後に続いた

「お!孝太?久しぶり…ハハッ 偶然だな 浩充だよ 覚えてるか?」

平常心を保っているようにも取れた

「お、覚えてるよ 何してんだよ…」

「お前こそ何してんだよ ここよく来るのか?」

お互いが何かを探り合っていたのは分かったが、俺は結論を早く知りたかった

「なぁ 孝太 誰かと待ち合わせしてたり…しないよな?」

「変なこと聞いてくるな そ、そんなことお前らに関係ないだろ 生きてりゃ…こうやって、たまたま会うことだってあるだろ」

浩充が何かを言い放とうとしていたが、それを遮る形で俺は続けた

「1人でふらっと入ってきただけなのか?」

「そ、そう言うわけじゃねえよ」

「誰と会う約束をしているのか…お、教えてくれないか?」

浩充は何かを悟ったような表情で目を瞑ってから話し始めた

「まさか…黒いパーカーの男を探していたり…しないよな?」

男は下を向いて黙ってしまった

この世の全ての生命の生気を吸い取るような凍てつく時間がそこには流れていた

「違うよな?ごめん、俺たち意味不明なこと言ってるよな 勘違いだったわ いや、たまたまお前に会うなんて…」

「探してますよ… 黒いパーカーの男を… でも、もう目の前にいる」

浩充は指で挟んでいた火をつけていない煙草をテーブルの上に落としてしまった

俺もその言葉が衝撃的過ぎて身体全身が震えてくるのが分かった

「いやいや 冗談キツいわ 黒いパーカーを着た別の友達と待ち合わせているんだろ?」

「その人は今日初めて会う人だ 友達なんかじゃない でも、初対面じゃない人間だってことが今…分かったよ」

俺は知りたかった 本当のことを

「買いに来たってことか?」

「1週間分…欲しい」

「はぁ?」

「嘘だ…嘘だと言ってくれ」

浩充は頭を抱えて下を向いたまま、数秒間黙り込んだ

俺も男とは目を合わせず、腕を組んでみせるも返す言葉が見つからなかった

何故なら、この男は俺と浩充と一緒にバンドを組んで活動していたベーシスト・福士孝太そのものだからだ

こんな偶然あるのだろうか

いや、そうそう無い 悪い意味で奇跡だ

過去に音楽を共に奏でたメンバーにクスリを売るなんて出来るわけがない

浩充が顔を上げると顔付きを変えて孝太の目を見ながら喋り始めた

「とりあえず外に出よう」

孝太は不思議そうな顔をしていた

「なんで?」

俺は自分のバッグを持ちながら席を立った

「事情が変わったからだ」

俺はそう言うと会計を素早く済ませて、2人を連れて店の外へ出た

天気がヤケに良くて腹立たしい気持ちになったが、この感覚は誰にも共感して貰えないだろう そう思いながら路地の隅に移動した

浩充は足元の石ころを蹴飛ばして、電柱に寄り掛かりながら孝太を説得し始めた

「単刀直入に言う…無理だ お前には売れない」

「なんでだよ 金ならある」

「そう言う意味じゃない 浩充も俺もそう言うこと言ってんじゃないんだよ」

「はっ まさか知り合いだから?知り合いだから売れないのかよ そう言うこと?」

「.........」

「もうお前らと俺は客と売人の関係性だろ?余計なこと考えるなよ お前らがどうしてこんな仕事しているかは分からないけど…そんなことどうだって良い 買わせろよ」

「それは出来ない」

浩充はパンツのポケットにしまっていた黒い携帯電話を取り出した

何やら電話帳から孝太の電話番号を削除しようとしているようにみえた

勿論、偽名で登録されているに違いない

その時、孝太が急に声を荒げた

「おい!それで客とやり取りしてんだよな?」

「お前には関係ないだろ」

「それ貸せよ」

「やめろ 離せ」

俺は浩充に近づき、トバシの携帯電話を奪おうとする孝太を必死で止めようとした

しかし、孝太は俺のことを突き飛ばして浩充の胸ぐらを掴んで黒い塊を奪い取った

「なにすんだよ」

「俺に売らないなら…他の奴にも売るな」

孝太は携帯電話を蓋が開いた状態で強く持ち、俺たちの方を向いて睨みつけた

そして….....折った 折ってしまった

軽くて無機質な音だけがした

この時、確実に時間が止まっていた

2つに折れた顧客情報がアスファルトの地面に落下した

浩充と俺は大きな目玉をさらに拡張させたまま呆然とその場に立っていた

何もすることが出来ない

俺は段々と足の震えが来るのを抑えられず、倒れ込んでしまった

浩充は閉じない口をどうすることも出来ず、ゆっくりとしたモーションで折れた鉄屑を拾って地面に転がる空き缶を見つめた

「どうすんだよ………」

「素直に売ってくれれ…」

「どうすんだよ!殺される!殺される!」

俺は上を見上げ、浩充の顔を凝視した

「え?殺される?」

「九十九さんに殺される!つ、つくも…」

浩充はその後、泣き崩れた

ワールドトレードセンターと同じぐらいの勢いで膝を曲げて敗北を身体全身で表現した

人間の負の要素を食い散らかした化け物のような有様だった

目から溢れる液体はドス黒くて…不透明

三ノ輪で遠くから聴こえるカラスの鳴き声が鼓膜を殴っている気がした

俺たちはいつどんな時だって…地獄の底にいる

それは深くて重くて想像を絶する場所だ

こんな春の終わりは今まで味わったことがない

そして、これからも味わうことはないのだ